たったひとつの約束

7月1日(金) 058.gif



 ある日とつぜん、ひとりのぼうやがお母さんたんぽぽから飛び立ちました。

一番運動神経がよかったあの子です。

春の風に手を引かれたかのように、すうっと空へと舞いあがったのです。

「あぶない、ぼうや! こっちへもどって!」

お母さんたんぽぽがどれだけ大声でさけんでも、どれだけ葉っぱをのばしても、

その子にはとどきませんでした。

 その子は一度だけお母さんたんぽぽをふり返り、にっこりと笑って綿毛をふるわせました。

まるで、まだ見たことのない新しい世界への期待に心をおどらせるように。




 その時、お母さんたんぽぽは気づいたのです。ぼうやたちとのお別れの時がきたということに。

そう、もうぼうやたちではないのです。

ぼうやたちは、自分の花を自分の力で咲かせることのできる、りっぱな大人へと成長したのです。

「ぼうやたち。次の春風が吹いたら、思いっきりジャンプをするのです。

そして、高く高く飛び上がるのですよ。」

お母さんたんぽぽは、いつもと変わらぬ、優しくてあたたかな笑顔でそう言いました。

でも、今までのように大きな葉っぱで、ぼうやたちを抱きしめてくれようとはしませんでした。



 ぼうやたちには、なにがおこったのかよくわかりません。

ただ、お母さんたんぽぽと離れたくない気持ちでいっぱいなのに、それと同じ分だけ

新しい世界を見てみたい不思議な気持ちでいっぱいでした。

 そして次の瞬間、強い春風が吹いたのです。

次から次へと、ぼうやたちが空へと飛びあがります。

ある子は、そっとお母さんたんぽぽの頬にふれ、ある子はお母さんたんぽぽの手をぎゅっとにぎり、

ある子は少しだけ涙を浮かべながら。




 お母さんたんぽぽは、何も言わずいつもと同じように笑顔でぼうやたちを見上げています。

さいごのひとりが高い空へと見えなくなってしまうその時まで。

 それが神様とのたったひとつの約束だったのです。

「けっして涙を流してはいけないよ。とても苦しい約束だが、それが私とのたったひとつの約束だ。」

そう言って、神様は100人のぼうやたちをくださったのです。

お母さんたんぽぽは、神様との約束をきちんとはたしたのです。



 こうしてまた、たったひとりきりになったお母さんたんぽぽは、そっと体を土の上に横たえました。

目をとじると、楽しかったぼうやたちとの時間がよみがえってきます。

小さくてやわらかかったぼうやたちの手の感触がよみがえってきます。

甘くていとおしかったぼうやたちの髪のにおいがよみがえってきます。




 お母さんたんぽぽには、ぼうやたちがどこでどんな花を咲かせるのか見ることはできません。

それでもお母さんたんぽぽは、とてもとても幸せでした。

とじたままのお母さんたんぽぽの目から、ひとつぶだけ涙がこぼれ落ちました。


                                          <おしまい>






最後までお付き合いくださり、ありがとうございました012.gif
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~ 最後まで読んでくださった皆さまへ ~

ありがとうございました。
この1年ほど、息子たちとの関わりを通して、
幼かった頃の息子たちを思い出すことが数多くありました。

「こんなお母さんになりたい」と、母親になった20年前に思い描いていた気持ちを
ちいさな物語にして残そうと思い書き始めました。
今は息子たちはこのブログを読むことはありませんが、
20年先、30年先、ひょんな事でこの物語に出会って、
私と過ごした日々を思い出してくれたらいいなと、ブログにアップしました。
息子たちへ贈る物語です。
こんな形でしか残せないけれど。




by a24ma35 | 2016-07-01 09:14 | まこママのつぶやき

ニャン生、何が起こるかわからない。たった一匹であの世に旅立つ寸前、おれは『寅吉』になったんだ。一匹ぼっちだったおれに、突然パパとママ、それから元気で優しいお兄ちゃんが3人もできちゃった。寅んちに遊びにおいでよ!!


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